岡田 英理子先生からのメッセージ

臨床医学教育開発学/総合教育研修センター

岡田 英理子

田中先生へ感謝を込めて

田中先生ご退任おめでとうございます。

田中先生は人を惹きつける独特の語り口と、溢れるアイデアで医科歯科の教育を立ち上げ発展させた方ですが、私の人生の重要なターニングポイントでは常に力になっていただきました。

医学科6年生の学生実習の時、古くて薄暗い当時の病棟の近くにあった第2内科の医局で、他科と入局を迷っていた私の話を聞いて下さいました。臨床をしたいが研究もやってみたいこと、漠然と抱いていた女性としての将来への不安と体力的な問題などでした。先生からは「(ベストの選択は)2内しかないでしょう。」と背中を押されたのを覚えています。もちろん自分自身で最後の選択はしましたが、それは間違えていなかったと今でも確信しています。

また、消化器内科で毎日内視鏡治療に明け暮れていた頃には、研修センター長だった田中先生から頂いたある年の年賀状に「(後輩を育てる)種芋になってください」という言葉が書かれていました。医師の仕事は医療を施し患者さんを癒やすことだと考えていましたが、自分が直接治療をすることの他にも、教育、つまり良医を育てる重要な貢献の仕方もある、ということに改めて気づかされました。その頃の田中先生はお忙しく、なかなか直接お話する機会もなかったのですが、私が人生に迷った時にまたしてもお力になっていただきました。

その時私は仕事にも家庭にもすべてに行き詰まりを感じ、大学からも内視鏡の治療からも辞めることを決めていました。先行きを心配して頂いた先生方も多かったです。その中で田中先生は辞職前の面談の際、少し外の空気を吸って頭を冷やしてくるように、とすべてが嫌になっていた私を引き留めることはされず、その代わり半年後に次の面談の日時を約束して別れました。そしてその約束の日に、もっと仕事がしたい意志が私にあることをみて、難しいなかポジションを用意して大学に迎えていただいたことは本当に有り難かったと思います。さらにその職位は今までとは異なる教育領域で、新しい挑戦をしつつ、私の続けていきたい消化器内視鏡も継続できる仕事であったことは感謝の念に堪えず、それまで頑張ってきたことを評価していただいたと自分にやっと自信がつき、人生の大きな転機になったことは言うまでもありません。

その後は田中先生の傍で薫陶をうけ、医学教育や臨床研修について、一から学び直し、また運営を担うものとして勉強の日々です。今、研修センター長として、田中先生も高橋誠先生もいらっしゃらないことが不安で頭の痛い毎日ですが、一番大事なことは「研修医を一番に考えること」。一番大事なことさえ見失わなければ上手くいく、と常に心にとめながら、まだまだ多い課題と向き合い、田中先生ならどうご意見を述べられるか、を考えながら益々精進していきたいと思います。体力がないと仰る先生は、日頃から体調管理に抜かりはなく、私よりよほどお元気だと思っていますが、これからも健康に気をつけてさらなるご活躍を祈念しております。ありがとうございました。