京都府立医科大学 教育センター センター長 大学院 総合医療・医学教育学 教授
山脇 正永
田中雄二郎教授からいただいたもの
私は2003年に臨床教育研修センターに着任し2010年まで、田中雄二郎教授のもとでご一緒にお仕事をさせていただきました。ちょうどこのころは東京医科歯科大学の教育改革が始まろうとしていた時期で、私も以前から医学教育には興味を持っていましたので、自身にとっても非常にexcitingな経験でした。ハーバード大学へのリーダーシップコース派遣、OSCEの導入、診療参加型臨床実習の導入、マッチングと新臨床研修制度の導入など、目にみえる動きがあるとともに、目に見えないものとして教育文化や教育風土の変容が涵養されてきた時期でもあったと感じます。もともと研究や臨床の領域で強みのあった東京医科歯科大学は、田中教授が教室を創設された時期から、医学教育の分野でも日本のトップリーダーの地位を固めてきたと思います。
私自身、田中教授からはとても多くのことを教わりました。なかでも以下の3つの点は、私自身今でも心に刻んでいるものです。一つ目は教学のリーダーシップです。教育変革にはリーダーシップが必要です。その条件としては、明確なゴール設定、大局的な視野、他分野とのコミュニケーションと実行力が重要となります。田中教授は明確なゴールを示され、持ち前のユーモアを織り交ぜながら、円滑に(時にはご苦労されながら)改革をすすめてこられました。新たなことをするには必ず障壁があるのですが、“それは当然のこと”として対応しておられたその実行力にいつも感服しておりました。
二つ目は大学の力を最大限に発揮しようと努力された姿です。本学の教育改革でもお世話になったハーバード大学のElizabeth Armstrong教授はいつも” Maximize your potential ! ”とおっしゃっていました。大学という大きな組織の力を引き出すことは容易ではありません。田中教授はこの点でもリーダーシップを発揮され、教育+研究+臨床という構図を、教育x研究x臨床としてmaximizeされてこられたのだと思っています。この姿勢は、田中教授の大学への母校愛に裏付けられているものであり、現在の東京医科歯科大学の国際的プレゼンスを確立されたお一人であると考えています。
三つ目は学生への愛情です。以前に田中教授は、第6学年学生に向けて孟子の“君子三楽”のお話をされたことがあります。君子の三つの楽しみとして、“父母兄弟が無事なこと”、“天にも地にも人にも恥じるところのないこと”、“天下の英才を教育すること”、があるという内容でした。この言葉は学生への大きなエールとなったとともに、その時の学生の感動が私まで伝わってきました。この言葉は私も現職でのモットーとなっているものです。
私は2011年より京都府立医科大学に新設された総合医療・医学教育学教室に赴任しましたが、田中教授は当方の状況を折に触れ気にかけてくださりました。田中教授も新教室の創設者であり、その立場から現在に至るまでさまざまなアドヴァイスをいただきました。私も新教室の立ち上げを経験してはじめて、田中教授のご苦労も少しわかったように感じております。京都府立医科大学での教育改革も東京医科歯科大学の歩んだ道を進んでおり、医学教育分野別評価の認定、日本医学教育学会主催なども実施することができました。
田中雄二郎教授のご退官に際しまして心からの感謝とお祝いを申し上げますとともに、今後の先生のご健勝をお祈り申し上げます。ただ、今後も変わらずに叱咤激励していただければ幸いです。私自身も田中雄二郎教授からいただいた薫陶をもとに、研鑽を積んでゆきたいと考えております。