鈴木 里彩先生からのメッセージ

鈴木 里彩

現在の所属 東京医科歯科大学 総合診療科
医歯学総合研究科 医療政策情報学分野 博士課程
専門 老年医学、総合内科
卒業年次 医61・H25年・2013年

田中雄二郎先生 ご退任に寄せて

田中先生、定年御退任、誠におめでとうございます。長年のあいだ、時に厳しく、時に優しく私たちの指導に当たってくださり、本当にありがとうございました。

先生には、学生・研修医・その後とそれぞれの段階、様々な場面でご指導をいただきました。廊下やエレベーターなどでお見かけし「あ、お忙しいかなぁ」と思って見ていると「鈴木さんじゃない~」と気さくに話しかけてくださるのがとても嬉しく、同時に器の違いを感じていました。こちらがあたふたしているうちに、どこまで冗談か分からないことを言い残して颯爽と去って行かれる後ろ姿が印象的です。

学生時代には、先生が「現場の意見を聞く」という姿勢をとても大切にしていらっしゃると感じ、尊敬していました。学年委員として、臨床実習に関する会議に列席させていただいていたときの様子はよく覚えています。田中先生をはじめ、各科のクラークシップディレクターの先生方でしょうか、朝早くから集まって真剣なお話をされている様子は今思い出すと尊敬の一言に尽きますし、何より議論を見せる・学生から直接意見を聞く、という姿勢に感銘を受けました。当時「えーそりゃないよ」と思ってしまう場面がなかったといえば嘘になりますが、その都度、学年の反応や、教育者の意図した方針と学生側の受け取り方の違いをきちんと確認したいという意志を感じ、こちらもきちんとフィードバックしなければ、と背筋が伸びる想いでした。他にも、いつのまにか教室の後ろに座って隣の学生に話しかけていらっしゃることはしょっちゅうでしたし、Advanced OSCEの小部屋で実技に四苦八苦している様子をじっと眺められたときには冷や汗をかいたのを覚えています。今、自分も学生や研修医の先生方と接するようになって感じますが、ああして「現場に行く」「直接意見を聞く」というのは、手間も時間もかかることです。愛ある接し方だったなぁと、改めて感謝の気持ちでいっぱいです。

医師になってからとても印象に残っているのは、某氏を一緒に担当させていただいたときの先生の話術です。いわゆる特別室の患者さんで、何かご納得されないことがあり、一番下っ端として間に入っていた私は四苦八苦していたのでした。ちょうど患者さんと長くお付き合いのある先生が現れたので、これは助かったと思い経緯をお話すると、さっそく一緒に部屋に行って患者さんとお話をしてくださるとのこと。滔々と説明なさるわけでもなく、「患者さんのペースに乗って」対話を続けるうちに、ものの数分で患者さんは笑顔で饒舌になっていき、最終的には当初お伝えしたかった治療の方向性で納得されていました。部屋を出ると先生は「分かったでしょう?」とにやり。その方のバックグラウンドやキャラクターを踏まえて、相手の考え方を尊重するという当たり前の姿勢を目の前で見せていただきました。意思の強い患者さんを前にするとどうしても身構えてしまい、未だになかなか先生のようにはできないのが現状ですが、先生のお顔を思い出しながら、今後も精進いたします。

最近になってよく、卒後の年次と仕事の結晶化に関する先生の講義を思い出しています。「学生時代~後期研修にかけて様々な分野や考え方に触れ、幅を広げていった後、ある段階から方向性が定まってきて、自分のやりたいことを深め結晶化させていく段階になる」「今は無限の時間があるように感じるかもしれないけれど、案外深める段階に至るまでの時間は短い」「臨床実習を含む最初の10年足らずの時間、精いっぱい様々なことに触れろ」というようなニュアンスだったでしょうか(細かい文脈を覚えておらず、恐縮です)。M5当時、さほどピンと来ませんでしたが、今年卒後7年目を迎え、多少なりとも結晶化させたいことの方向性が定まってきました。まだまだ若輩ですが、自分なりによい実りを結べるよう研鑽を積み、先生のように後進の背中を押せる医師を目指したいと思います。

最後になりますが、在職中のご厚情に深く感謝いたしますとともに、どうぞお体を大切になさって、ますますご活躍されますことを、心よりお祈りいたします。本当にお疲れ様でした。